犬の歯周病では、一般的に口の中の病気というイメージを持たれるかもしれませんが、歯の根っこの病気により顔の目の下のあたりや下顎の皮膚の腫れ、赤み、排膿が認められることがあります。
動物病院で診察をしていると、年に数回「目の下が腫れています」という患者さんに出会います。ほとんどの「目の下が腫れている」患者さんは、皮膚の炎症やしこりではなく、歯周病が原因で目の下が腫れます。
そこで今回は、歯周病が原因で目の下が腫れる病気について詳しく解説し、実際の治療について説明します!
この記事を読んで頂ければ、なぜ歯周病で目の下が腫れることがあるのかが、ご家族でも理解することが可能です。
犬の目の下にはなにがあるのか?
早速ですが、犬の目の下にはなにがあるのか、まずは犬の頭の骨模型で見ていきましょう!
画像を見て頂くとすぐお気づきになるかもしれませんが、犬の目の下には奥歯(第4前臼歯、第1後臼歯)が存在しています。
この奥歯は根っこが3つあり、それぞれ上顎の骨に埋まっています。
それでは次に歯の構造についてみてみましょう!
歯の構造と根尖の病巣
これらの歯の歯髄に細菌感染が起こり、細菌が歯の根っこから周囲の歯根膜、歯槽骨(歯を支えている骨)に炎症を起こし、根尖周囲に病巣ができます。
この病巣が悪化することで、病巣から瘻管を形成し、目の下、顎の皮膚(外歯瘻)や口の中の歯肉や粘膜(内歯瘻)に瘻孔を形成した結果、排液や排膿などがみられます。
犬の根尖周囲病巣の症状
・硬いものが食べられなくなった
・食べる途中で食べ物を落とす
・左右どちらか一方でしか食べない
・顔を触ると嫌がる
・目の下の傷、皮膚の腫れ(外歯瘻)
・歯の近くの歯肉や歯肉粘膜に小さな傷ができる(内歯瘻)
上記のような症状がある場合には、歯周病による根尖周囲病巣の可能性があるため、獣医師に相談してみて下さい!
当院で歯科治療を開始してからこれまで、数十症例「目の下の皮膚が腫れている」犬を診察しました。徐々に腫れてくるケースもありますが、急速に腫れるケースもあります。
腫れが進行すると、薄くなった皮膚が破れ中には膿が出てくる場合もあります。
犬の根尖周囲病巣の診断は?
犬の根尖周囲病巣の診断は、上記で説明した臨床症状の把握と外歯瘻・内歯瘻を起こしている歯の根尖周囲病巣を確認することで行います。
最も重要な検査は全身麻酔下で行う歯科X線検査です。この検査のためには、通常のレントゲン装置ではなく、歯科専用のレントゲン装置が必要になります。
当院では歯科専用のデジタルレントゲン装置を完備しており、歯科処置症例すべてで全部の歯のレントゲンを撮影するようにしています。
それでは実際の根尖周囲病巣による外歯瘻の犬の歯とレントゲンを見てみましょう!
1枚目:白丸で囲んだ歯(第4前臼歯)には重度の歯石沈着が認められる
2枚目:歯石を除去したあと。重度の歯肉後退があり、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けている
3枚目:(歯科用レントゲン)歯の根っこのひとつの周囲の骨が炎症により溶けている
別の子の歯の写真とレントゲンも見てみましょう!根尖周囲病巣による外歯瘻を発症した歯と反対側の歯で明らかな違いが分かると思います。
1枚目:白丸で囲んだ歯には重度の歯石沈着が認められる
2枚目:2つの臼歯(第4前臼歯と第1後臼歯)の根っこの周囲に広く骨吸収が認められる
3枚目:赤丸で囲んだ歯は歯槽骨で支えられている
このように根尖周囲病巣はどの歯の根っこが原因かを特定するのに歯科用レントゲンが必須なのです。1つの歯が原因の場合もありますが、複数の歯が原因となる場合もあります。
犬の根尖周囲病巣の治療法は?
犬の根尖周囲病巣の治療ですが、ほとんどが中等度~重度歯周病が原因で根尖周囲病巣になり、目の下が腫れたりします。そのため、原因となる歯の抜歯がベストだと考えられます。
ごく一部の症例では歯内治療が適応になり、歯の温存が可能ですが、術後の歯のメンテナンスができない場合や、術後の定期的な鎮静または全身麻酔下での歯科レントゲンでの評価が必要になります。
抜歯や歯内治療をしない場合は、一時的に抗生物質の投与を行うこともありますが、感染源を取り除かない限り再発するため、根治的な治療法ではありません。
そのため当院では、抜歯を行うことを推奨しています。
全身麻酔に不安がある方はぜひ以下の記事も読んでみて下さい!
いくつか実際の症例の治療内容を見ていきましょう!
この子の場合、犬歯より後ろの臼歯は歯周病が重度であったため、すべて抜歯をしました。
別の子の例もみていきましょう!
この子は他にも歯周病の歯があったため、その処置も同様に行っています。
抜歯後の経過はどんな感じ?
犬の歯周病治療で10本以上抜歯することは珍しくありません。臓器の機能等に異常がなければ、基本的には日帰り手術になりますが(状態等によりお泊りになることもあります)、術後2,3日で術後の痛みが落ち着いてきます。
当院では、歯周病治療の際に疼痛緩和のため、「局所麻酔」及び「全身的な鎮痛剤」の併用をしていますが、それでも2,3日は食欲が少し落ちたり、元気がなくなることはあります。
また、抜歯後に歯肉を縫合した子では、1週間はウェットフードを与えてもらっています。ドライフードをふやかしてあげない理由は、ドライフードはふやかすと細かい粒々が傷口に入り込んだりしてしまうことがあるからです。
1週間は痛み止めの内服を、抗生剤は術後2週間処方することが多いです。
だいたい4,5日経過すると食欲、元気を取り戻してくる子が多いイメージです。術前の歯周病の状態によっては以前より元気になった!と感じられることも多いです。
2週間くらい経過すると、縫合した部分はほぼ完全に癒合し、痛みもほぼなくなります。そのころには、ドライフードも問題なく食べれるようになります。
当院では術後2週間くらいで再診し、その後は状況に応じて定期的な口腔内のチェックと歯磨き指導等を行っています。
術後の合併症は?気になる費用は?
全身麻酔を無事に乗り切ることができ、なおかつ歯周病の治療が適切に実施されれば、合併症が起こることはあまりありません。
予め麻酔後の全身状態の低下が予想される場合には、数日点滴を入院下で行うこともあります。
術後に起きる合併症としては、局所の感染や、縫合部の離開などです。
特に重度歯周病等により、歯肉が後退している子では、傷口を閉鎖する際に、歯肉フラップといって穴を閉じるように縫合する必要があります。
その際に、歯肉をできるだけテンションがかからないように縫合するのですが、ここの縫合が適切に行われないと、きれいに癒合しません。
ちなみに気になる費用ですが、当院では、術前検査等含めて、8~15万円程度が目安になります。抜歯の本数、縫合の有無等で費用は左右します。
歯周病で目の下が腫れないための予防は?
ここまでの記事を読んで頂いた方には、歯周病が原因で犬の目の下が腫れてしまう理由は分かったと思います。
それでは、歯周病が原因で目の下が腫れてしまうことを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
答えは、「上顎の第4前臼歯、第1後臼歯の適切な歯磨きをして、根尖周囲病巣になるのを防ぐ」ことです。
根尖周囲病巣のほとんどの原因は、第4前臼歯や第1後臼歯の歯肉縁上の歯肉炎から発生します。歯肉縁の歯肉炎が歯の根っこの方に波及し、歯周炎が進行していくことで根尖周囲病巣が生じます。
特に、第4前臼歯の外側に歯石が沈着すると歯ブラシが歯周ポケット内に届かなくなり、さらに歯周病が悪化する環境が出来上がってしまいます。
そのためにも、まだ歯石が付着していない場合には、歯周病ポケットを歯ブラシで磨くことで予防ができます。歯石が既に付着してしまっている場合には、全身麻酔下での歯石除去及び歯周ポケットの洗浄等を行うことで進行した歯周病をリセットし、根尖周囲病巣になることを予防できます。
歯磨きの方法等に関しては以下の記事も参考にしてみて下さい!
まとめ
・犬の目の下が腫れたら歯周病が原因かも?
・歯周病が原因で腫れている場合には、抜歯をしないと根治できないことが多い
・抗生剤による治療は感染源を取り除いているわけではないので、再発する可能性が高い
・小さい頃から歯磨きをする習慣をつけることで、将来のリスクを減らすことができる!
目の下が腫れている、抜歯が必要と言われたが、麻酔が心配など不安な方はぜひ動物病院に相談してくださいね!
駅前通り動物病院での歯周病治療の特徴
丁寧でわかりやすい治療説明
犬の歯周病治療には全身麻酔が必要であり、気軽に実施できるものではありません。
そのため、治療前に現状考えられる治療内容、治療経過等をじっくりと話したうえで治療に移ります。
これまでの治療経験等も画像や歯の模型等を使ってわかりやすく説明します。
歯科専用器具を完備
高性能超音波スケーリング、歯科用高速ドリル、歯科用レントゲン、歯科用サージカルルーペ等の最先端、最新の歯科専用器具を取り揃えています。
高倍率ルーペ、歯科用レントゲンを導入している動物病院はまだほとんどありません。
質の高い治療
駅前通り動物病院で犬の歯科治療を2021年に開始してから100頭以上の歯周病治療を行ってきました。
また、常に犬にとってより負担の少ないかつ効果的な治療方法を追求し続けています。
ご家族が納得できる、満足できる治療を提供し続けています。
可能な限り、生涯での麻酔回数を減らせるような治療方法をご提案しています。
治療後のデンタルケアサポート
歯のメンテナンスの仕方を必ずサポートします。
いきなり歯磨きを指導するのではなく、まずは顔周りのマッサージから。
徐々にステップアップできるようにアドバイスしています。
一方通行にならないように必ずご家族との対話を大事にしています。
駅前通り動物病院での歯周病治療の流れ
STEP1 診察(口の中、全身チェック)
歯周病治療では、まずは視診を行い、大まかな口の中の状態を確認します。歯の本数や、生え方、動揺の有無、歯石の付着具合、歯肉の炎症の程度、歯肉ラインなどを確認します。
また、あわせて全身の状態の確認も行います。口の中以外の異常がないかを確認します。
この時点で、大まかな治療の内容、治療後のフォローアップ、費用等のお話を丁寧に説明します。
STEP2 麻酔前検査(当日実施)
全身麻酔をかける前の評価を実施しています。これは当日に実施することが多いです。主に、血液検査、胸部レントゲン検査、エコー検査で心臓や肝臓、腎臓等の主要な臓器機能を評価します。
麻酔前検査で明らかな異常が認められなかった場合は、全身麻酔下での歯科処置を実施します。
STEP3 スケーリング&歯科レントゲン検査
全身麻酔をかけたら、まずは口の中を観察します。その際に、歯周ポケットの深さや、歯の動揺の有無を確認します。その後、スケーリングを行い、歯に付着している歯石を除去します。歯石を除去し終わったら、必要に応じて、歯科用レントゲンを撮影します。
歯科用レントゲンは、歯の評価、歯を支えている歯槽骨の評価のために行います。
STEP4 必要に応じて抜歯等の処置
抜歯適応の歯がある場合には、抜歯を行います。抜歯には、歯肉切開をせずに抜く閉鎖法と歯肉切開を行い抜歯を行う開放法の2つがあります。
歯肉切開をせずに済む場合にはあえて歯肉切開は行っていません。どちの方法をとるかは、歯の状態にもよります。
開放法で抜歯をした場合には、歯肉縫合をします。吸収糸で縫合するため、抜糸の必要はありません。
歯科処置後の管理
歯科処置は、基本的には日帰りになります。麻酔後は鎮痛をしっかり行い、帰宅当日の夜からお水とご飯は食べられる状態でお返しするようにしています。
抜歯本数が多い場合や、全身状態に異常がある場合には1泊2日で実施しています。
処置の内容に応じて、今後のご自宅での歯のケアについてアドバイスをさせて頂きます。
歯周病治療の費用の目安
・麻酔前検査:10,000円~
➡血液検査、胸部レントゲン検査(必要に応じて心臓エコー検査、腹部エコー検査)
・全身麻酔代:10,000円~
➡静脈確保、点滴、抗生剤、鎮痛剤等
・スケーリング代:25,000円~
➡歯石除去、ポリッシング等
・抜歯代:10,000円~
➡本数、部位、歯肉縫合の有無により変動
東大宮、大宮、土呂、上尾エリアで歯科処置を検討されている方、ぜひ当院へご相談くださいませ。
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