東大宮にある駅前通り動物病院では、年間数頭尿漏れで来院される犬を診察しています。今回の尿漏れですが、女の子の中~高齢犬で一番多い、ホルモン反応性尿失禁について取り上げます。
尿漏れ自体は、神経系の異常や膀胱アトニー、先天性の問題、膀胱の解剖学的な位置など様々な原因で起きます。しかし、日常生活は全く問題ないのに、特に寝ている時に尿漏れをしてしまう場合には「ホルモン反応性尿失禁」が原因のことが多いです。
この記事では、老犬のホルモン反応性尿失禁のメカニズムと治療について書いていきます。
犬の尿漏れの症状は?
犬の尿漏れとは「犬自身の意思とは無関係に尿が漏れてしまうこと」です。つまり、排尿姿勢を取っていないにも関わらず尿が漏れてしまうような症状のことです。
実際には、犬が寝ていて起きた後にベットが尿で少し濡れている、お腹が尿で少し濡れているなどの症状が多いです。尿の切れが悪いや、おしっこの失敗などは今回説明する尿漏れとは少し異なります。
その他にも男の子の犬で前立腺肥大が起きると、尿道が圧迫されて尿の切れが悪くなります。このような場合、排尿をした後に尿がポタポタたれたり、排尿時間が延長したり、排尿の勢いが弱くなったりなどの症状がでます。
犬の尿漏れの原因で多いのは?
犬の尿漏れ自体は様々な原因で生じます。例えば、うれしょんも尿漏れです。しかし、うれしょんは病的なものではありません。うれしょんは、あまりの興奮によりお腹に力が入りすぎることで、お腹の中の圧力が上がり、尿が漏れ出てしまいます。
膀胱炎が起きても尿漏れのような症状がでます。膀胱炎になると膀胱が痛みで刺激されるため、トイレに間に合わずにトイレ以外のところでおしっこをしてしまったり、ぽたぽたと尿が漏れたりします。
膀胱炎の5大症状は、以下の通りです。
・尿失禁(自分の意思とは無関係に尿が漏れてしまう)
・頻尿(トイレに何度もいく)
・血尿
・不適切な場所での排尿(トイレの失敗)
・排尿時の痛み
成犬の避妊済みの女の子で「寝ている時に尿漏れする」場合には、ホルモン反応性尿失禁の可能性が高いです。海外の報告ですが、避妊した雌犬の5~10%程度で避妊手術後に尿失禁が起こるともいわれています。
避妊手術後すぐに尿失禁が起こるのではなく、数年後に起きることが多いです。(平均3年くらいと報告されています)
その他には、多飲多尿になってもトイレを我慢できずに漏らしてしまうことがあります。犬の場合、多飲多尿を起こす病気には、慢性腎不全、副腎皮質機能亢進症、糖尿病などが挙げられます。これらの病気の鑑別は、血液検査や尿検査を実施します。
犬のホルモン反応性尿失禁の診断は?
犬のホルモン反応性尿失禁は血中のエストロゲン、テストステロンの低下により尿道括約筋の緊張が低下することで不随意の排尿をしてしまう病気です。
基本的には除外診断になります。身体検査や血液検査、尿検査、レントゲン検査、エコー検査等で尿失禁を起こしうる異常がないかを確認します。
特に膀胱炎は尿漏れの原因として比較的多いので、尿検査、エコー検査等を実施することで確実に除外します。
また、血液検査をすることで、多飲多尿による尿漏れ様の症状が出ていないかを確認します。
一通りの検査を実施し、いずれも問題がない場合にホルモン反応性尿失禁と診断することが多いです。
ホルモン反応性尿失禁の一番多い症状は、「寝ている時の尿漏れ」です。リラックスをしている時に、尿道括約筋の収縮が緩むことで尿漏れしてしまいます。
初めのうちは、ほんの少しの漏れですが、尿道括約筋の機能低下が進行すると尿漏れの量が増えてきます。
ちなみに男の子の犬では非常にまれです。
犬のホルモン反応性尿失禁の治療は?
犬のホルモン反応性尿失禁の治療については、海外の報告でも内科的な投薬治療がメインになるとされています。
Medical management is always the first treatment option because it is not invasive and successful in
up to 97% of cases内科的な管理は、非侵襲的であり、成功率も97%ほどと高いため、治療のファーストチョイスである
Applegate et al., 2018
私もこれまで様々なホルモン反応性尿失禁をみてきましたが、手術まで必要としたのは1例のみでした。
内科的な治療ですが、治療薬には、αアドレナリン作動薬である「フェニルプロパノールアミン」か女性のステロイド性ホルモンである「エストロゲン」が使用されることが多いです。
フェニルプロパノールアミンは、膀胱の出口の部分や尿道の平滑筋の緊張を高めることで尿道括約筋の締りを高めてくれるお薬です。尿道括約筋の締りが改善することで、リラックスした際に尿が漏れてしまうことを防ぎます。
ちなみに用法通りに内服をしていれば、締まりすぎておしっこが出せなくなることはないのでご安心下さい。
エストロゲンは、尿道粘膜の組織を刺激することで、尿道を締める圧を高めてくれるお薬です。
エストロゲン製剤による治療報告もいくつかはありますが、フェニルプロパノールアミンより治療効果は劣ることと、性ホルモン製剤のため、副作用に注意する必要があります。
しかし、数回エストロゲン製剤を使用したことで数年単位で尿失禁が改善したという報告もあるため、長期の服用に抵抗がある方や、フェニルプロパノールアミンの投薬が難しい子では投薬を検討してもいいのかもしれません。
The reported efficacy of this drug varies between 86-97%
フェニルプロパノールアミンの効果は、86-97%と報告されている
(Scott et al., 2002; Claeys et al., 2011より一部改変引用
海外の報告では、フェニルプロパノールアミンの方が、効果が高いとされていますので、私の場合、ホルモン反応性尿失禁の犬の治療にはフェニルプロパノールアミン(商品名:プロパリンシロップ)を使用しています。しかし、このフェニルプロパノールアミンは残念ながら日本では購入することができません。
そのため、取り扱いがある病院はいずれも海外薬を輸入して処方しています。当院も海外薬を輸入したものを患者さんに処方しています。その他にも、海外薬の個人輸入代行業者もありますが、こちらは完全自己責任になります。
フェニルプロパノールアミンを処方した避妊済みの女の子の犬は今のところ全員で尿漏れの改善が認められています。
どの程度の改善かというと、完全に尿漏れがなくなるレベルです。このお薬のみだと効果がない場合もあるみたいですが、その場合には、性ホルモンを併用するとさらに効果が増加すると言われています。
尿漏れをしていると、毎回汚れた毛を洗わないといけないですし、尿漏れがなくなればカーペットやクッションを毎回洗う必要性もなくなりますので、犬にとってもご家族にとっても幸せなことですね!
このフェニルプロパノールアミンですが、副作用としては以下のようなものが挙げられます。
現実的な副作用ですが、今現在のところ副作用に遭遇したことはありません。どの子も定期的に健康診断を行っていますが、今のところ副作用と思われる症状はありません。
犬の尿漏れで困っている方がいたらぜひ、かかりつけの先生に相談したうえで、お薬の使用を検討してみてくださいね!
※こちらのサイトは自己責任にはなりますが、海外薬を個人輸入で購入することができるサイトになります↓↓
また、在庫切れになることが多いので、余裕をもって注文するようにして下さい。
また、生涯投薬する必要性があるのかという点ですが、一般的に初回の投与量で効果があった子は徐々に投薬回数を減らしても尿失禁が再発しないことが多いです。
ホルモン反応性尿失禁のリスク要因は?
ホルモン反応性尿失禁に影響を及ぼす因子がいくつか報告されています。特に報告が多いのは以下の3つです。
・体重(犬種や体格、体型)
・不妊手術の方法(卵巣摘出、卵巣子宮摘出術)
・手術時期(年齢や初回発情の時期)
上記の要因の中で現時点でわかっていることは、大型犬で起きやすいということです。ある報告では、体重が15㎏以上の犬は、多重が15㎏未満の犬に比べて尿失禁が7倍起きやすいと言われています。
そのため、特に大型犬では避妊手術を実施する際には、予め尿失禁が起きる可能性をインフォームするようにしています。
不妊手術の方法や発情時期と手術時期の関係等では明らかな違いはないと報告されています。しかし、生後半年以前の早期不妊手術は発症率の増加に関係しているかもしれませんのでご注意下さい。
まとめ
・犬のホルモン反応性尿失禁は、避妊した犬の5~10%程度に生じる安静時に尿漏れしてしまう病気
・ホルモン反応性尿失禁は膀胱炎などを除外した上で診断する
・ホルモン反応性尿失禁の治療薬で一番効果が高いのはフェニルプロパノールアミンという成分だが日本では購入できず海外薬を輸入する必要性がある
駅前通り動物病院では医療機器を完備
血液検査機器
各種血液検査機器を完備しているため、院内で血液検査を実施できます。15分前後で結果がでるため、スムーズに治療に移ることができます。
デジタルレントゲン検査機器
デジタルレントゲンシステムを導入しているため、撮影からデータの描出まで、数分で終わるため、スムーズに治療に移行することができます。
歯科用デジタルレントゲン装置
2022年の秋に新たに歯科用デジタルレントゲンを導入しました。増加する歯周病の治療成績をより向上させるために、また客観的な情報を提供するために役立ちます。
高性能サージカルルーペ
歯周病治療などの際に、徹底的な歯周ポケットの洗浄、歯石除去やより質の高い治療を実現するために2022年10月に導入。
超音波検査機器
超音波検査により、お腹の中の臓器を評価したり、心臓の構造・機能を評価したりすることができます。プローブを当てるだけなので、痛みもなく動物たちのストレスを最小限に検査ができます。
内視鏡装置
犬の場合、内視鏡は全身麻酔をかける必要があります。しかし、お腹を開けることなく、食道、胃の中、十二指腸などを観察することが可能です。また、鼻の中や、喉の奥も観察することが可能です。
歯科用ユニット
3歳以上の犬の70-80%が歯周病と言われています。そのような背景の中、当院では歯周病の治療に力を入れています。より短時間で歯周病治療を実施できるように歯科用ユニットを導入しています。
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